歯科検診を終えて


 5月という季節は、一年中で木々の緑が最も美しく、私たちにとっても最も過ごしやすい季節ではないでしょうか。北風にコートの襟を立て、春の訪れを心待ちしていたのがついこの間のことだなんて、季節の移り変わりの早さに改めて驚かされます。同時に梅雨入りが目前に迫っています。ちょっと憂鬱ですが、こんな季節があるから私たち日本人の豊かな季節感が生まれ、自然の恵みがあるのです。
 さて、5月といえば保育園の歯科検診の季節、皆さんのお子さんの口の中を拝見した感想を若干コメントいたします。
 今年は例年になくむし歯の低年齢化がみられたような気がします。年中組でこれほど虫歯の多かった年は、ここ十数年では初めてだったように記憶しています。そして、年長組では10本以上むし歯という子も何人かいました。
 むし歯ぐらい少々多くっても体が健康なら大した問題ではない、ただ歯医者に連れていくのが億劫でと考えている親御さんがいるならば、少々失礼な言い方ですが、それは親御さん自身に問題があります。
 私が歯科医として子供達のむし歯を考える場合、治療の対象という以上に、子供達の生活の乱れを危惧します。
 お母さん方から、3歳以下の子供のブラッシング法をたずねられることがあります。この時は、特に細かい指導はしません。なぜなら、この年齢でむし歯ができるとすれば、それはみがき方の問題ではなく、間食を含めた食事に大きな問題があるからです。言い方を変えれば、食事の管理がある程度できていれば、3歳くらいまではまずむし歯はできません。
 ですから、この間にむし歯ができるのは、子供の体が発した悲鳴であったり警告だと考えてください。
 何に対する悲鳴や警告か・・・
 それは、強烈な甘味に対する悲鳴であり、また将来の成人病(最近は生活習慣病といいます)に対する警告なのです。
 1歳から3歳といえば、味覚の形成期で、将来のその子の味覚をほぼ決定してしまいます。この時期に、おやつといえば必ず甘いものというように、子供達を「砂糖漬け」にしてしまうと、味覚が鈍化し、甘いもの以外のおいしさがわからなくなってしまいます。人間が砂糖だけ食べていて健康的な生活ができるのなら話は別です。甘党で味の濃いものが好きという、将来の糖尿病、高血圧症、高脂血症、肥満、心臓病といった、まさに生活習慣病の予備軍を作ることになります。いや、むし歯そのものも生活習慣から作られる慢性疾患、つまり生活習慣病という見方もできます。
 子供だって、毎日甘いものを口にしていたら、甘いものを食べる楽しみを失ってしまいます。たまに食べるからこそ、甘いものはおいしいという、正常な味覚を作ってあげてください。砂糖が入っていなくてもおいしいものはたくさんあるはずです。
 おじいちゃんやおばあちゃんが甘いものをあげるというのであれば、歯科の治療のさいに、どちらかを同席させてあげてください。
 食事の管理は、味覚の管理をも含みます。
 たまに甘いものを食べたからといって、そう簡単にむし歯はできません。
 どうか、肩を張らずに楽しい食事を心がけてあげてください。
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