ストレスを力に


 今年も残り少なくなってきましたが、皆さんにとってどんな1年だったでしょうか。人それぞれにさまざまな感慨を抱いていることでしょう。社会全体そして地球規模では、どうも暗いニュースが多かったように思えます。異常気象による災害、世界経済の不安定、国家間の紛争、内戦、食糧危機、暴動等、いろんな矛盾が一気に噴出したような1年でした。
 日本では、企業倒産の増加、社会的権力者の汚職の摘発、環境ホルモンの問題、政権交代、集中豪雨による災害、殺人事件の増加等、考えるだけでも気が重くなります。そして、一般家庭にとって共通の関心事といえば、やはり長引く不況に対する不安ではないでしょうか。収入の増加が見込めず、将来に対する不安がつのる中、無駄をどう省いていくかということが重要になります。
 昨年の9月以降、社会保険本人が、1割から2割に負担増となったこともあり、一般家庭にとって医療費の負担もかなりひびいてきているはずです。多くの開業医はこの患者負担増の医療改革に反対し、署名活動まで行いました。しかし結果的には法案は残念ながら成立しました。
 でも、一般市民にはこの開業医の行動はどう映ったでしょうか。「国民の健康を守るために一生懸命がんばってくれている」と、受けとめていただけたならありがたいことです。しかしもし、「患者の負担が増えると、受診が減り、開業医の収入が落ち込むから、それを防止するためにあわてて反対しているだけだ」と、映ったなら、ことは重大です。私たち開業医は、大いに反省し、日常診療における考え方や行動を改めなくてはなりません。
 なぜなら、それは悲しいかな、患者(もしくは一般市民)と開業医との信頼関係が欠如しているために出てくる思いだからです。患者の信頼をゆるがすような言動が開業医の側にあったかもしれないと、私たち開業医は深刻に受けとめなくてはなりません。それは診療中でのことかもしれませんし、ひょっとすると診療以外でのことかもしれません。人間としての信頼関係がなければ、たとえ「病」は治せても、「気」は決して治せないでしょう。
 さらに、体に「故障」が生じた時に心から頼られる歯科医であることはもちろん必要ですが、健康な時にも頼られる歯科医でありたいものです。最近、私は健康を考える時、ストレスとの関係を重視しています。ストレスがなくなるだけで、人間の体は自分で自分を治そうとする能力(自然治癒力)が高まります。ストレスは、本人の考え方いかんで大きくも小さくもなります。

 今は亡き、松下電器の生みの親、松下幸之助氏が昭和52年当時の不況時に残した、いわゆる「松下語録」を紹介します。

「松下語録」

* 不況といい好況といい、人間が作り出したものである。人間にそれをなくせ
 ないはずはない。

*不況は、贅肉をとるための注射である。
 今より健康になるための薬であるから、いたずらにおびえてはならない。

*不況は物の価値を知るための、得がたい体験である。

*不況の時こそ、企業は伸びる。

*かつてない困難、かつてない不況からは、かつてない革新が生まれる。それは、技術にお ける革新、製品開発、販売、宣伝、営業における革新である。そして、かつてない革新か らは、かつてない飛躍が生まれる。

*不況、難局こそ、何が正しいかを考える好機である。

*不況の時こそ、事を起こすべし。政府もまた勇猛果敢に政治の大転換をはかり、徹底的に 積極政策を取るべきである。
                             昭和52年3月


 実に前向きな発想ではありませんか。この語録の、「不況」を「スランプ、悩み」に、「企業」を「人間」に置き換えてみてください。ストレスを軽減させ、前向きに生きるヒントがたくさんあります。奇しくも、先に出版した拙著「真の健康を求めて」の中で、ストレスをなくす方法として紹介した事柄と多く共通していたので、うれしくなりました。
 どうか、ストレスを飛躍のための力にしてください。
98.11-12
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