再度 歯ブラシについて


2006. 9月
 テレビのコマーシャルでも、歯ブラシの宣伝は頻繁に出てきます。
  一方歯科業界でも歯ブラシの開発はさかんで、テレビ以上に新しいデザイン、素材のものが作られます。メーカーがしのぎを削って開発するということは、つまりはその需要があり、しかも採算性がいいということに他なりません。
 当院でも来院される皆さんには、実際に使用して効果があると考えられる(信じている)ブラッシング法と、それにあったブラシを勧めています。
 また、それ以外の歯ブラシについて皆さんから質問を受けることもあるので、たいていのブラシを使ってみることにしています。
 そして言えることは、一口にブラシといってもかなり使い勝手が違うということです。そして使用目的、つまり何をするために使うのかによってブラシも選ぶ必要があるということです。その目的に合わないブラシを使用すると、効果がでないばかりか、かえって為害(害を及ぼすこと)作用を引き起こす場合があります。
 たとえば、当院で成人の方に勧めているブラシは、比較的柔らかく毛先が細くなっています(メーカーの宣伝になるので名前はあえて言いません。指導時にお聞き下さい)。開発されてから十数年経っていますが、このブラシは、狭い所、奥まった所の清掃に向いています。 
 ブラッシングの指導を受けた方はご存じかと思いますが、このブラシの使い方は、ひじを固定し力を入れず、小さなストロークで小刻みに動かすことがポイントになります。すると不思議なくらい、歯と歯の間など狭い箇所に毛先が自分から入ってくれます。ですから、歯周ポケットの中の清掃などには効果的です。
 このブラシを大きなストロークで、しかも力を入れて使うと、てきめんに歯肉に傷を作ってしまいます。柔らかいはずのブラシで傷つけるという皮肉な結果を招きます。正しい使い方をして、はじめて効果が出る歯ブラシなのです。
 でもこの歯ブラシ、万能かといえば決してそうではありません。
 たとえば、歯の面をツルツルにするといった効果は弱いように思います。
 ブラッシング後に舌で歯の面に触れてみて、ツルツルした感じがあると気持ちがいいですよね。このツルツル感、歯の面がきれいになったひとつの目安になります。
 でも、考えてみて下さい。
 ツルツルという感覚は舌や頬の内側の粘膜が感じるのです。
 そういった箇所は、いつも舌や粘膜などが触れ、きれいになっている所ではないでしょうか。つまり、そこからムシ歯などができる可能性はそれほど高くはありません。
 当院では、唾液などが届きにくい狭い所(不潔域といいます)がきれいになった感覚を知っていただくことのほうが重要だと考えています。
 さて実際の使い方のお話をします。
 歯ブラシのストローク(往復する距離)は5mmから大きくても1cmくらいです。目安は、一度隙間に入った毛先が出ない程度です。これ以上大きく動かすと、毛先が隙間に入らないばかりか、歯間乳頭(歯と歯の間の歯肉の膨らみ)を傷つけて、かえって炎症を引き起こします。
 次に強さですが、痛みで判断すると間違いがないようです。
 通常、炎症がなければ、極端に力を入れない限り痛みは感じません。ただ、先の細くなったブラシでは、歯と歯肉の境目の溝(歯肉溝)に入った時、チクチク感じることがありますが、それ以上力を入れてはいけません。炎症がある場合、強さを少しずつ増していくと、むず痒さ、あるいは痛痒さを感じてきます。強さはそこまでにして下さい。前にも言ったように、痛みを我慢してのブラッシングは逆効果です。
 痛みとは、一種の防衛反応、つまり侵害性刺激(自分を傷つける刺激)を認識してそれを回避するための感覚と考えて下さい。
 グリップ(握り方)は、ブラシの柄を指だけでそっと支えるくらいが適当です。掌を使ってしっかり握ってしまうと、ブラシを歯に当てる方向やストロークの方向が制限され、結局ひじを揚げざるをえなくなります。こうなると疲れるし、力が入り過ぎるし、ストロークが大きくなるしで最悪です。
 ひじは、慣れるまではもう片方の手で支えるか、台の上に固定して、ひじから先だけ動かす習慣を身につけるようにしましょう。

「たかが歯ブラシ、されど歯ブラシ」結構奥が深いでしょう。



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