歯科治療の誤解    07.5月-7月


 医療の中でも、歯科治療ほど誤解されやすいものはないのではと思います。
 誤解が生じやすい原因としては、
1) 治療内容がわかりにくい(自分自身で確認しにくい)
2) 生体と材料双方が関係する
3) 医療技術の限界
4) 保険の制度上の問題
等が挙げられます。
 まずは、誤解されやすい項目を列挙してみましょう。
*むし歯は病気ではない!?
*治療したのに、またむし歯になった。
* 治療したのに、学校に歯科検診で「むし歯あり」という通知がきた。
* 歯に黒い部分があるのに、なぜ治療しないの?
* 治療してから痛みが強くなった。
* こんなに何度も通院しないと治療が終わらないの?
* 歯周病の治療をしたのにまた腫れた。
*つめた材料や金属がすぐ外れた。
* 同じような処置なのに、前回は保険でできたのに、今回はできない。
* 同じような処置なのに、前回と今回では支払い金額が違う。
* ずっと通院しているのに、初診料を請求された。
* 入れた冠(クラウン)はどのくらいもつの?
* 保険で白い歯は入れられるの?
* 歯と歯の間の隙間が気になっているのに、なぜ塞いでくれないの?
* 水がしみるのに、なぜ神経を抜いてくれないの?
* 下の義歯を作るのに、なぜ上の型までとるの?
* 歯周病は治るの?
* 義歯の縁が長すぎる。もっと短くしてほしい。
* 矯正は保険がきかないの?
 誤解されやすいことがらと真実(本音)について、わかる範囲で解説してみたいと思います。

* むし歯は病気ではない!?
 むし歯は普通、生命を直接脅かすことはありませんので、いわゆる「病気」という認識が低いのかもしれません。しかし、自分の体の一部が侵食され、完全に元通りにはならない、しかも痛みを伴ったり咀嚼といった口の機能に障害をもたらすという点で、明らかに病気です。
 しかも、むし歯がたくさん生じるような生活は、生活習慣病の面からも問題であり、改善する必要があります。同様のことは、歯周病にもあてはまります。

* 治療したのに、またむし歯になった。
  むし歯の治療には、本当の意味での「治癒(ちゆ)」はなく、原因となる細菌を除去し、進行を食い止め、欠損した部分を歯科材料で補填したに過ぎません。むし歯が生じるにいたった原因(食生活、ブラッシング等)を改善しない限り、再発は十分起こりえます。また処置にしても現在のところ、10mμ(1mmの1/100)単位が精度の限界ですが、ちなみに細菌の大きさは1μ単位です。もうおわかりでしょう。

* 治療したのに、学校に歯科検診で「むし歯あり」という通知がきた。
  学校の歯科検診では、百人から数百人の生徒をチェックしなくてはなりません。歯の本数では2000本から多ければ1万本を超えますから、精密なチェックはとてもできません。そのため、むし歯が疑われる場合、とりあえずC(シー=むし歯)として、歯科医院でのチェックを勧告します。そこできちんと検査して、結果的にむし歯がなければそれでよしとするのが、学校歯科医の一般的な考え方です。また歯石や歯肉炎等、その他の問題のチェックにもなります。
  したがって歯科医院の受診は決して無駄にはなりません。

* 歯に黒い部分があるのに、なぜ治療しないの?
黒い部分が必ずしもむし歯ではありません。色素が沈着しただけということもよくあります。しかし、色素が沈着するということは、それだけものがその部分に停滞しやすいわけですから、注意するに越したことはありません。

* 治療してから痛みが強くなった。
 むし歯で軟らかくなった部分がそれまでいわば緩衝材の役目をしていた場合、それを除去することにより痛みが出ることがあります。また、軽いむし歯や歯周病では起こりにくいのですが、ある程度進行している場合、治療材料や処置による刺激で痛みや症状が悪化することがあります。その他、歯の神経をとった場合にもその傷の「うずき」が数日残ります。さらに、処置により痛みが止まるか強くなるかで次の治療計画を決める場合もあります。
 したがって、痛みが出たからといって必ずしも不適当な治療だったわけではありません。

* こんなに何度も通院しないと治療が終わらないの?
 初期のむし歯や歯肉炎なら簡単に終了します。深いむし歯で症状が緩和するか経過を見ている場合、慢性の歯髄炎の治療では比較的時間や治療回数がかかります。さらには歯周病が進行した場合には、本来の処置の他にかみ合わせの調整や揺れている歯の固定、最終的にどの歯が残せるかといった経過観察も必要になりますから、かなり時間はかかると考えてください。残せるか抜歯するか、迷うような歯が多いほど時間はかかるものです。
 もちろん、初期のむし歯の治療や歯石の除去等、時間さえ許せば一度に処置ができる場合もあります(保険の制約上、認められないケースもありますが)。

* 歯周病の治療をしたのにまた腫れた。
 進行した歯周病の場合、一連の処置や手術のあと、症状が安定することはあっても、完全に治癒する場合はまれです。そのため、術後の管理=メンテナンスが大切です。歯肉が下がって複雑な歯の面が露出した場合、また深い歯周ポケットが存在する状況では、どうしてもプラーク(細菌の塊)が停滞するリスクが高くなりますから、定期的にメンテナンスを受け、プラーク等の起炎物質(炎症を起こす原因)を除去することが必要です。
 途中で体調を崩したりメンテナンスを中断したりすると、炎症の再発につながります。 

* つめた材料や金属がすぐ外れた。
 最近の歯科治療では、ミニマルインターベンションといって、治療のための生体への侵襲(傷つけること)をできるだけ少なくする傾向にあります。
 全部かぶせるより一部だけにする、「かぶせる」より「つめる」、「つめる」より「削らない」という具合に(もちろん条件があれば、です)。
 接着材料はずいぶん進歩し、接着する面積、つまり削る部分を少なくできるようになってきました。しかし、過度に力がかかればやはり外れることもあります。より大きく削ったり、またはかぶせれば外れにくくはなります。
 私の個人的な考えは、外れたらまたつめればいい、歯を傷めてはいないないのだから、というところです。
 一方、大きく削ってかぶせたものが外れた場合には、さらに大きく削る必要があります。根の短い歯は抜歯してブリッジにすれば外れにくくなります。揺れている歯は、多くの歯を削って連結すれば外れにくくなります。
 「削りたくない」と「外れにくい」は、相矛盾することが多々あります。

* 同じような処置なのに、前回は保険でできたのに、今回はできない。
  ブリッジ(歯の欠損した部分を前後の歯を土台にして橋渡しをする)などでは、欠損した歯の数と土台にする歯の数が保険で決められています。ですから、欠損が大きいと保険で認められなくなる傾向があります。また、犬歯より後ろの歯を白くすることは一般的に保険の適用から外れます

* 同じような処置なのに、前回と今回では支払い金額が違う。
 保険では、処置や治療、指導等の回数がそれぞれ決められていますので、何度行っても1回分しか請求できないものや、月に1回と決められているものが多くあります。医療費抑制策の一例ですが、受診する方からすると、大変わかりにくいものになっています。

* ずっと通院しているのに、初診料を請求された。
  歯科では、ほとんどの処置について、診療日の間隔が3か月以上経過すると規則として初診の扱いになります。逆に、例えば慢性の歯周疾患の治療が続いている場合、たとえ別の疾患が生じたとしても、前回の診療日から3か月に満たない場合は再診の扱いとなります。

* 入れた冠(クラウン)はどのくらいもつの?
  よくある質問ですが、同時に難しい質問です。「もつ」という言葉の中に、歯自体の寿命や耐久性と冠の材料としての耐久性、さらにはそれらを接着しているセメントの耐久性等、いろんな要素が含まれているからです。さらには、その歯にかかる負担の状況も深くかかわってきます。いずれにしても、よい条件できちんとした管理もされている場合、20年以上問題なく機能している例も珍しくありません。

* 保険で白い歯は入れられるの?
 犬歯を含めた前歯では、原則的に保険で白い歯を入れることは可能です。これは硬質レジン前装冠といって、金属のフレームに見える部分だけ硬質の樹脂を張りつけたものです。実は、それより奥の歯にも樹脂だけの冠を被せることはできるのですが、より大きな力のかかる部分にもろい樹脂のみの冠を被せることには疑問がありお勧めできません。しかもそのもろい歯に対して、歯科医は2年間の保証をしなくてはなりません。
 
* 歯と歯の間の隙間が気になっているのに、なぜ塞いでくれないの?
  となり合った2本の歯と歯肉に囲まれた部分に、三角形の空間が見える場合があります。特に、ある年齢になって歯肉が後退した場合に気になることが多いようです。この部分を塞いでほしいと相談されることがよくあります。コンポジットレジンという樹脂をつめたり、冠を被せることで歯の膨らみを大きくして、ある程度この空間を小さくすることはできますが、完全に塞ぐことには疑問があります。完全に塞ぐということは歯肉の上を異物で覆うことになり、ブラッシングが難しくなったり、炎症を引き起こす原因になるからです。

* 水がしみるのに、なぜ神経を抜いてくれないの?
 歯の神経(歯髄)の痛覚は特殊で、他の皮膚などの痛覚とは異なり、症状が軽いときは冷たいものに対し痛みを感じ(冷水痛)、進行すると今度は熱いものに対し痛みを感じる(温熱痛)ようになります。冷水痛を感じるうちはまだ治る可能性がありますが、温熱痛になるとほとんどの場合、神経を抜かないと症状を抑えることができなくなります。
 水がしみるというのは実に不快な症状ですが、歯科医としてはできれば神経を抜きたくないものです。冷水痛を抑える処置はいくつかありますので、ご相談下さい。

* 下の義歯を作るのに、なぜ上の型までとるの?
 義歯だけでなく冠なども同様で、歯科の治療では「かみ合わせ」がとても重要で、「かみ合わせ」が歯の形や位置を決めるといっても過言ではありません。つまり、「かみ合わせ」の相手に合わせて歯を作るのです。これにより初めて、しっくりかみ合う義歯や冠が口に入ることになります。

* 歯周病は治るの?
 歯周治療により、初期の歯周病はほぼもとの状態にまで回復できます。
 しかし、進行した歯周病の場合は多くの場合、残念ながらもとの状態にまで回復することは難しくなります。それは、歯を支えている骨(歯槽骨)をはじめとした組織が炎症により消失してしまっているからです。へこんだ部分の骨が平らにまで回復することはありますが、平らになった骨が盛り上がることは実際には起こりにくいものです(研究段階では進められていますが)。
 つまり、歯周病で下がってしまった骨をもとの位置まで再生させることは非常に難しいのです。
 ですから歯周病にならない、歯周病を進行(悪化)させないということが現段階では重要と思われます。
 深い歯周ポケットが完全にもとの状態になることはほとんどありませんが、歯肉と歯との密着は十分起こりますから、進行させないという意味では、定期的な管理を行い、ポケット周囲の細菌や歯垢等の起炎物質をコントロールすることが重要です。

* 義歯の縁が長すぎる。もっと短くしてほしい。
 総義歯の場合、吸盤と同じ原理で顎の粘膜に密着し、食べ物を咀嚼したり会話することができます。このとき義歯の縁は、顎の粘膜とほほや舌の周囲の粘膜に包まれるようにして密封されます。義歯は小さい方が一般的に異物感は少なくなりますが、逆にこの密封性は弱まります。義歯の縁が当たり傷ができるときは縁が長すぎると考えられますが、異物感がある場合は、義歯の縁の厚みを薄くしたり義歯の歯の形を調整することで和らげることができます。

* 矯正は保険がきかないの?
  口蓋裂等、特別な場合を除き、残念ながら矯正は保険の適用外となります。これは、日本ではまだ、歯列不正を疾病ではなく、審美的な問題としてとらえられているからと考えられます。
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