唾液の力

2013年10月



 私たちは食事の際、何げなく咀嚼(そしゃく:かむこと)していますが、このとき唾液が分泌され、食べ物と混ざり合います。
 普通に咀嚼して、普通に唾液が分泌され、食べ物と渾然一体となって嚥下(えんげ:飲み込むこと)される---健康なときには無意識に行われるこのプロセスをあらためて意識することも普段はほとんどありません。
 でも、何かの原因でこのプロセスがスムーズに行われなくなったとき、普段意識しない「あたりまえに行われるこのプロセス」のありがたさを実感することになります。
 健康とは失ったときに初めてありがたさがわかる---そういったものなのかもしれませんね。
 歯を失ったり、口の神経や筋肉に障害が起こりうまくかめない、口からのどの神経や筋肉に障害が起こりうまく飲み込めない---介護が必要な方、そして介護に関わる方々にとっては切実な問題です。
 さてこの他に、唾液が十分出なくて食べ物をうまく飲み込めない、口の中が乾いて気分が悪い、入れ歯が当たったり口内炎が頻繁に起こるといった障害があります。
 口腔乾燥症=ドライマウスといいますが、特に中高年の方でこの症状に悩まされる方がとても多くなっています。
 ドライマウスについては以前にも「院内だより」で触れましたので、ここでは割愛いたします。
青葉歯科医院のホームページの「読用薬」の歯科治療のコーナーに掲載されていますので、ご興味のある方はそちらをご覧下さい。
(http://aoba-dc.jp/medicine/medicine47.htm)
 今回は、その唾液の力について触れてみたいと思います。
 唾液には、ざっと挙げるだけでも以下のような働きがあります。
* 消化作用
アミラーゼという炭水化物酵素を含んでいます。
* 潤滑作用
発音や咀嚼の際に、舌や歯、粘膜同士の触れ合いを円滑にします。
* 粘膜の保護作用
 唾液中のムチンというタンパク質が膜を作り、種々の刺激から粘膜を保護します。
* 緩衝作用
 口の中には酸からアルカリまでいろんなpHの食べ物が入ります。唾液の炭酸水素がそれらを中和します。
* 歯の成熟、再石灰化作用
 食べ物には酸性のものが多いのですが、歯はその酸により微量ながら絶えず表面が溶かされています。唾液中には、歯の構成成分であるカルシウムとリン酸が豊富に含まれていて、溶け出した歯をたえず再石灰化しています。
* 清浄作用
 食べ物による口腔内(特に歯の周囲)の汚れや細菌等を洗い流す作用があります。
* 抗菌作用
 免疫グロブリン、ペルオキシダーゼ、ラクトフェリン等により、免疫、殺菌作用があります。
* 体液量調節作用
 脱水症状のとき唾液分泌は抑制され、のどの渇き感を引き起こし、水分の補給を誘導します。
* 内分泌作用
 パロチン(唾液腺ホルモン)等が含まれ、骨や歯の発育促進し、表皮成長因子により粘膜の傷の治癒を促進します。動物が傷口をなめるのはこの作用を本能的に知っているからだろうといわれています。
 その他最近では、唾液には消化器系の発がんを抑制する働きもあることが報告されています。
 よくかむことがいかに大切か、おわかりいただけたでしょうか。 

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