オーラルフレイル

2018年8月



 近年医療の分野では、フレイルという言葉がクローズアップされています。

 こういった造語や名称の変更は医療の分野では珍しくなく、最も端的な例は生活習慣病という疾患名ではないでしょうか。
 生活習慣病は、以前は成人病といわれていました。名称が変更になった理由は、これらの疾患が成人特有のものではなく、また、生活習慣の改善により予防が可能であり、また疾患自体も治癒に向かうという考えからです。

 さて、フレイルとは、弱さ、脆さ、虚弱を意味する英語のfrailty から作られた造語です。
 海外の老年医学では、この frailty は虚弱、脆弱、老衰というそのままの意味で使われています。
 日本老年医学会では、高齢者に起こりやすいこのfrailty に対し、早期に気づき適切に介入すれば元に戻るという意味があることを強調し、フレイルという日本語訳にすることを提唱しました。
 2014年5月のことです。

 フレイルには、身体的フレイル、精神的フレイル、社会的フレイルがあり、これらは相互に関連し合っています。
 社会的フレイルとは、地域や社会との繋がりが疎遠になることで起こる機能低下の前兆で、特に独居の高齢者などによくみられるフレイルです。

 さて、厚労省研究班の報告書ではフレイルについて、
「加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像」
と説明しています。
 簡単に言えば、健康と要介護の中間的な状態ということでしょうか。

 フレイルの基準として、Fried(フリード)の提唱したものをご紹介します。
1.体重減少:意図しない年間4.5kgまたは5%以上の体重減少
2.疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3、4日以上感じる
3.歩行速度の低下
4.握力の低下
5.身体活動量の低下
 以上5項目のうち、3項目以上該当するとフレイル、1または2項目だけの場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します。
 これは身体的フレイルですが、これが精神的、社会的フレイルと相互に関わってくるのです。

 さてオーラルフレイルというのはこの口腔編です。
 発音、咀嚼、嚥下といった口腔機能の軽微な低下や食の偏りなどを含みます。
 具体的には、滑舌低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増える、口腔乾燥等ほんの些細な症状であり、見逃しやすく、気がつきにくい特徴があるため注意が必要です。
 特に口腔という器官は、栄養摂取のための消化器官の入り口であり、その機能が低下すると、体力、抵抗力、免疫力の低下に直結します。
 ところで今年度の診療報酬改定では、口腔機能の回復に新たな評価が加わりました。
 舌圧検査、咬合能力検査等、その測定方法の是非はともかく、厚労省が口腔機能の低下が要介護に直結するという事実を認めたのは明確です。

 呂律(ろれつ)が回りにくくなった、食べこぼしが頻回になった、よくむせるといった初期症状を単なる老化のせいにせず、機能回復のための対応を行うことが大切です。
 機能訓練というと大げさですが、体操、運動くらいに気軽に考えて、日常生活の中で習慣化することが何より大切です。
 具体的な例としては、あいうべ体操(大きく口を動かし、特に「べ」では舌を突き出す)が有名ですが、これは口輪筋をはじめとする表情筋と舌の運動です。
 毎日、ウォーキングと同様に意識的に運動できればいいのですが、なかなか実行が難しいという方も少なくありません。
 要するに、人と(内容はともかく)話す、会食する、笑う、泣く等、感情(感動)を伴いながら口を動かすということが、フレイルの改善にはとても大事なのです。
 これらの行動は、自律神経のうちの副交感神経の作用によります。
 副交感神経は、心身をリラックスさせ、栄養の消化吸収を高めます。
 唾液の分泌も促し、免疫力も高めます。
 反対に自律神経のうちの交感神経の興奮状態が続いたり、あるいは自律神経自体がうまく機能しなかったりすると(自律神経失調)、フレイルが進行し、もはや健康な状態には回復できない機能不全に陥るリスクが大きくなってしまいます。
 笑いががんの予防になるというお話がありますが、これは笑いにより副交感神経の機能が高まることで、自身の免疫力をも高まるという良い例でしょう。
 適度な刺激は健康の源です。
「笑う門には福来たる」
 表情筋と舌を使う生活を心がけましょう。

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