歯科で金属が使われなくなる!?

2019年2月



 かつては、笑ったときに前歯に金属が光っている方が多く見られました。
 一つには金属、それも金色の材料を使うことがステータスシンボルだったことが理由かもしれません。その他、「金は身体に良い」という俗説が影響していたとも考えられます。
 ただ、かつてはアマルガム(水銀と他の金属の合金)や非貴金属(イオン化傾向の高い金属、つまり化学変化しやすい金属の総称)も歯科材料として使われていたようですから、イオン化傾向の低い金をはじめとする貴金属は口腔内でも当然安定しています。
 したがって、他の金属を使うより金を使うほうが安全ということはまんざら根拠のないことではないのかもしれません。
 現在保険診療の歯科で多く使われている金属は、銀合金(主に乳歯に使用)と12%の金を含有した金銀パラジウム合金がほとんどです。
 金は高価で、それに比較しより安価で、金属としての性質も安定し加工しやすいパラジウムを合金に加えてきました。
 ところが近年、このパラジウムの価格がかなり高騰し、それに連動し金銀パラジウム合金自体の価格もかなり上がってきました。すでに金の代替金属などとはいえない価格にまでなっています。クラウン(歯全体に被せるもの)やインレー(歯にはめ込むもの)、義歯のクラスプ(歯にかかる金属の部分)等に使用されている金銀パラジウム合金ですが、最近、歯科の装着物の価格が上がったなと感じるのは、そのためです(保険で使われる歯科の金属の価格は、半年に一度改定されます)。
 ちなみに、パラジウムという金属はジュエリーにも使われますが、近年自動車の排気ガス浄化用、そしてアセトアルデヒド合成用の触媒として需要が高まり、それが価格の高騰につながっています。
 以上の経済的理由や、より自然の歯に近いものをとの審美的理由から、また金属アレルギーの問題等から、徐々に歯科医療に金属が使われなくなる傾向がみられます。
 コンポジットレジン(歯に接着する樹脂)やハイブリッドレジン(セラミックと樹脂の合成材料)、グラスファイバー等のめざましい進歩もこの傾向に拍車をかけています。
 あまり大きくない歯の欠損には、歯を削る量も最小限で済むこれら樹脂系の材料で修復する場合がかなり多くなりました。さらに、金属と違い、歯に直接接着する技術が向上したことも使用頻度の増加につながっています。
 とはいえ、金属のメリットもあります。
 口腔内に使用する金属には、化学的に安定した性質で、加工しやすいものが使われます。展延性、つまり粘りがあるため、力が加わった時に破断しにくいのです。
 私たち歯科医療従事者にとって、この金属の信頼性は決して小さくありません。
 先に触れた樹脂をはじめとする新しい材料がさらに改良され、金属のもつこの粘り強い性質を具備した時、口腔から金属がなくなるかもしれません。

 

 

 



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