歯を削るということ、歯を抜くということ

2019年7月



 歯科医になって早いもので、今年で38年になりました。
 私が学生の頃は、歯を抜いたまま放置(経過観察?)することは、歯科医としての義務を果たしていない、つまり怠慢であるという教育を受けました。
 また、動揺(揺れ)のある歯は、削って隣の歯と金属で繋げるか、あるいは他の歯より寿命が短いという理由で抜歯するというのが、第一、第二選択でした。
 そして歯を抜いた場合、欠損部分が小さければ前後、あるいは左右の歯を削ってブリッジに、欠損部分が大きければ可撤性(自分で取り外しができる)義歯にするというのが、当時一般的でした。
 そして学生だった私は、いかに正確に歯を削るか、いかに正確に咬合関係(歯のかみ合わせ)を作り上げるか、そしていかに審美的(自然観のある)な補綴物(ブリッジや義歯)を装着するかが歯科医の使命だと信じていました。
 装着後数年間は、きれいな歯になった(といっても人工の歯ですが)、あるいはかめるようになったと喜ばれる一方、ほとんどのケースで大きな問題は起こりませんでした。
 しかし、10年20年すると、治療のために削った部分からむし歯になったり、装着したものが外れたり壊れたりすることが多くなりました。
 しかし考えてみれば、この悲惨な結果は早かれ遅かれ、当然起こりうるものなのです。
 ブリッジ等を歯に装着する場合、セメントという装着材料を使います。当時はまだ接着ではなく、合着と言っていました。接着というほど強く歯とくっつかなかったのです(現在は接着にかなり近くなってきました)。
 そこに、強ければ40〜50kgという咬合力(かむ力)が加わったり、横にゆすられたりします。歯を1本抜いてブリッジにした場合、土台になる2本の歯には合計3本分の力がかかります。2本抜いた場合には合計4本分の力、つまり1本の歯に対し2倍の力がかかるようになります。さらに神経を抜いた歯では、弾力性が低下するため、この力により割れるリスクが格段に高くなります。
 また、口の中には0℃の水から70℃以上のお湯まで入り、pH2くらいの酸性の食品も入ります。そしてそれが日に何度となく繰り返されます。弾性や比熱、膨張率が異なる歯と補綴物の間にギャップが生まれる条件があまりにも多いのです。
 以上から、長期にわたりブリッジが外れたり壊れたりせず、あるいはギャップからむし歯にならないほうが、むしろ稀なくらいなのです。
 もちろん、補綴物を入れることで、一定期間かめるようになったり、綺麗な口元になることは可能です。そのために治療するのですから。
 しかし、たとえ治療とはいえ、歯を削ったり抜くことで、新たなリスクが生じることも残念ながら事実なのです。
 現在の私は、歯を削ったり抜いたりすることに対し、かなり慎重(臆病?)になっています。できればそういった処置はしないで済めばと、いつも願っています。
 ですから、まずは歯を削ったり抜いたりすることのないように、予防を心がけることが何より大切なのです。
 一方で、厳密にはむし歯であっても、進行しないものもあります。
 細菌が留まりにくい場所であったり、食生活を改善することで、進行を抑制することが可能なのです。
 定期的に検診を受けることで、経過観察、つまり処置をしない場合も多くあります。
 また、検診で補綴物の状態を点検することもある程度できます。その際は、気になる症状や不具合を伝えてください。
 ただし補綴物を装着している場合は、先に述べたような補綴物の限界も理解し、上手に付き合うことも必要です。
 これ以上歯を削らなくて済むように、歯を抜かなくて済むように。



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