歯の亀裂(ひび)

2019年10月



 成人の歯の表面をよく観察すると、縦に細い線が見えることがあります。
 生えたての歯にはありませんが、年齢が増すにつれ、この線が多く見られ、さらに、着色して目立ってくる場合が多いようです。
 これは歯の亀裂、つまり歯にひびが入っているのです。
 「歯にひび」と聞いて驚くかもしれませんが、若い方の場合、ほんの表層のみなのでほとんど心配はいりません。
 ただし、神経を除去した歯や高齢者の場合は注意が必要です。亀裂が原因で、歯が欠けることがあるからです。
 ところで、歯になぜ亀裂が生じるのでしょうか。
 まず亀裂は、硬い物、あるいは乾燥した物に生じます。軟らかいものや水分を含んだ物は、力を加えても弾力があるため、変形して力が分散するので亀裂は起こりません。軟らかいゴムやシリコーンなどが良い例です。
 一方、硬いコンクリートや石、ガラスなどは亀裂を生じ、さらには割れてしまうこともあります。これは、その材質が硬いため、一定の力までは強いのですが、ある限界を超えると変形できないため、力を分散できずに部分的に破壊が起こります。これが亀裂です。
 歯の表面のエナメル質は、体の中で最も硬い組織ですので、ある限界を超える力がかかると、亀裂が生じます。
 また、亀裂は力だけでなく、温度変化でも起こります。
 一般的に、物質は温度を上げると膨張し、温度を下げると収縮します。力の場合と同様に、軟らかい物ではこの膨張と収縮に対し弾力という変形で対応できますが、硬い物では、温度変化による体積の膨張収縮がある限界を超えると亀裂を生じます。
 口の中には、ほとんど0℃に近い冷たい物から、お茶やコーヒーなど70〜80℃の高温の物まで入ります。特に物の入り口である前歯で顕著です。
 例えば、アイスクリームを食べながらお茶を飲む場合、歯の表面では、短時間で70〜80℃の温度変化を繰り返すことになります。普通のガラスだったら割れるであろうことは容易に想像できます。歯では、ほとんどの場合温度変化は表面において大きいので、亀裂が起こるのです(熱は内部までは伝わりにくいのです)。ただ極端な場合、熱いもので歯が痛むことがありますが、これは神経近くまで熱が伝わったためで、歯にとっては危険信号です(ちなみに、冷たいものでも痛みを感じることがあり、これは歯特有の痛みですが、その説明はここでは割愛します)。
 歯に縦の亀裂がある場合、急激な温度変化が原因と考えられます。
 一方、以前お話ししたT.C.H(上下の歯を長時間接触させている癖)や食いしばりといった習慣があると、歯肉との境界付近に横の亀裂、あるいは溝ができることがあります。専門用語ではこれをアブフラクション=abfractionと言い、摩耗=ablationと破折=fractionから成る造語のようです。
 この欠損が大きくなると、冷水痛(冷たい物で痛みが出ること)が強くなる傾向がありますが、症状を抑えることは比較的容易です。
 亀裂の発生を防ぐには、熱い物と冷たい物を短時間で交互に口にすることを避け、できるだけ温度変化をゆっくりにさせることです。
 またアブフラクションを避けるには、T.C.Hや食いしばりの習慣を改善し、必要であればナイトガードという食いしばり防止用のマウスピースを装着して、歯への力を緩衝するといった対策が考えられます。
 以上、思い当たること、あるいはすでに症状が出ている場合には、ご相談ください。



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