マスクと口呼吸

2021年2月



長引く新型コロナ禍で、海外の多くの歯科クリニックは休診しています。
医療の現場では、患者と医療スタッフとの距離はかなり密になります。
そんな医療の中でも、歯科医療は特に感染リスクが高いとされています。
アメリカ国内で行われた、職種ごとの感染リスクの調査結果は以下の通りです。

 歯科でリスクが高い理由として、
1. 直接患者に触れないと、ほとんどの医療行為自体が成り立たない
2. 唾液に触れる機会が多い
3. 歯の切削や歯石の除去等で、エアロゾルが発生しやすい
等が考えられます。
 しかし一方で、日本ではこれまでのところ、歯科診療からクラスターが発生したという報告はありません。
 これは、世界的にみると非常に驚異なことなのです。
 奇しくも、日本の歯科診療の現場でこれまで行われてきたStandard Precaution(S.P.)=標準予防策が周知徹底されていることが証明されたとも言えます。
 S.P.とは、感染が疑われる患者に感染防止対策をするのではなく、すべての患者が感染しているかもしれないという前提に立って行う感染防止対策です。
 歯科診療では、治療器具の滅菌や消毒、口腔外バキューム(ゴーという大きな音のする吸引器)やオゾン水や空気清浄器等、感染リスクの軽減のためにできうる対策を講じてきました。
 したがって、皆さんには安心して歯科診療を受けていただきたいと思います。
 さて、昨今では対外的にはマスク着用が当然というか、マナーとなりました。
マスクは、感染予防対策として必須なアイテムとなりましたが、一方でリスクもあることを知っておかなければなりません。
現在マスクは、自身が感染しないためというより、自身から他人に感染させないためのアイテムというのが主な位置付けです(自身の感染対策として意味がないというわけではありません)。 
こんな大事なマスクですが、着用しない場合に比べ、空気抵抗はかなり大きくなりますから、呼吸には少なからぬ負荷がかかります。
呼吸では、息を吸う時に肋骨に付着する筋肉や横隔膜を緊張させ、息を吐く時にそれらを弛緩させます。したがって息を吸う時により多くのエネルギーが必要になります。
その際マスクをしていると、吸気時の抵抗が大きくなるため、吸気量を補おうと無意識のうちに口呼吸になる傾向があります。実は、哺乳類で口呼吸をするのは人間だけなのです。
もともと鼻は呼吸する器官、口は食物を摂取する器官と区別されていましたが、人間が口でも呼吸するようになったのには理由があるようです。それは、人類が進化する過程で、コミュニケーションの重要な方法として、言語という手段を手に入れ、発音としての言葉を発するようになったことと関連しているというのが有力な説です。
この口呼吸は鼻呼吸と違い、外気をそのまま吸い込み肺に送り込むため、呼吸器官に色々なトラブルを引き起こす原因となります。まずは、鼻呼吸を機能面から考えてみましょう。
比較的大きな異物やほこりは、鼻の入り口近くにある鼻毛でブロックされます。
次に、鼻をはじめとする気道(鼻から気管までの空気の通り道)の粘膜から分泌される粘液に細菌やウィルス等が付着し、粘膜の繊毛により、気道内部から鼻や口に向かって送り出され、排除されます。これが痰や鼻汁です。また一部は嚥下され胃の中の胃酸で処理されます。
さらに、鼻腔の加温と加湿機能が挙げられます。
吸気は鼻腔を通る間に、そこに分布している毛細血管により加温加湿されます。ちなみに、湿度は80%以上にまで上げられるといわれています。
高い湿度は、乾燥に強いウィルスの力を弱め、一方で異物排除機能をもつ繊毛の運動を活発にします。
口呼吸ではこれら異物排除機能は働かず、かつ関東の冬季であれば20%程の乾燥した冷たい空気がそのまま肺にまで送られますから、肺にとってはかなり過酷な環境といえます。
最近ではもう一つ、主に副鼻腔粘膜で産生されるといわれるNO(一酸化窒素)も注目されています。NOには、
・副鼻腔の殺菌や抗ウィルス機能
・副鼻腔の繊毛運動の促進
・副鼻腔のNOが肺に運ばれることによる、肺の機能の活性化
といった効果があります。
反面、過剰産生されたNOが非特異的免疫応答の増強や,活性酸素種との反応を介した細胞障害作用を引き起こし,アレルギー性炎症の病態増悪の一因になっているとも考えられています。

何れにしても、鼻を介して呼吸することが重要であることはご理解いただけたと思います。
マスクをしていても、気づいたら鼻で深呼吸する、いびきをかきやすい方は、就寝時に口にテープを貼る、あるいは鼻を出した口マスクをするといった方法もあるのでトライしてみてください。



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