もちろん、むし歯予防対策が奏功したことで、小児の歯科治療が減ったこともその要因の一つかもしれませんが、当院を受診される方も、私の年齢プラスマイナス10歳くらいの方が70%くらいのような気がします。矯正治療をしていますから若い方もそれなりに来られますが。
さて、「病は気から」とはよく聞く諺です。
「気の持ちようで、病気にもなるし病気から立ち直ることもできる」という意味だと思います。
大雑把な言い方ですが、半分当たっていると思います。
病気には、器質的な病変と機能性な病変があります。 器質的とは、臓器にがんや潰瘍、炎症など、組織や細胞が変形、変性あるいは破壊された結果、見た目にも明らかな異常があり、それによる症状が現れる病変を指します。 一方、一見異常が見つからないものの、その働き(機能)が変調をきたしさまざまな症状が現れたり、あるいは検査数値の異常を招いているケースを機能性の病変と呼びます。
器質的異常(臓器の見た目の変化)は、現在の医療上、外科的処置に頼るケースが多くなります。
診療の場では、私は皆さんの訴えに対し「気のせいです」とは言わないようにしています。
「気のせい」とは、「あなたがそう思っているだけで、実際には何ら異常はありません」という意味です。そんな、神様のような診断ができるはずがありません。
「異常」という診断は比較的下しやすい反面、「異常なし」の判断はとてつもなく難しいのです。
正確に言えば、「異常は見つけられなかった」ではないでしょうか。あるいは、「正常ではないが、異常の実態が絞れなかった」「確定診断がつかなかった」といったところだと思います。世の中、医学の分野以外にも、そのような「確定診断」がつかないケースの方が多いのではないでしょうか。
歴史上の史実でも、よくわかっていないことが多々ありますし、裁判でも冤罪はもちろん、裁判官の個人的な判断に委ねることも少なくありません。真実を求め追求するのが科学的な方法として重要で価値のあることですが、現実的には科学が発展途上である以上、それで全てを解決できないのも事実です。
ではそんな限界のある現実の中で、私たちはどう生きていけばいいのでしょうか。
私はこの年齢になり、学んだことがあります。
それは、無駄な悩みはしないということです。
「下手(へた)の考え休むに似たり」という諺があります。
本来は、囲碁や将棋で、下手な者が次の手をただ考えていても時間を浪費するばかりで何も進まないことの例えを揶揄したものです。
私はこれを自分なりに勝手に解釈して、「考えたり悩んだりすることで結果が好転するならいいが、結果を変えることができないなら、その時間は無駄になるからしないほうがいい」と置き換えています。
話題はちょっと変わりますが、最近の東北大学の研究によると、ヒトの遺伝子で鬱(うつ)に関係するVMAT1遺伝子の130番目と136番目のアミノ酸にヒト特有の変異があるそうです。
これには、スレオニン型とイソロイシン型があり、前者が懐疑心、警戒心、慎重さ、心配性といった心理状態を作りやすく、後者が「ま、いいか」といった楽天的な心理状態を作りやすいタイプと言われています。
現在、人類はアフリカに起源を持つという説が定着しています。
アフリカから他の地域へ移動する際、前者の遺伝子が大いに役立ったようです。すなわち、新天地を目指すときにそこで何が起こるかわからない、そんな環境下では常に周囲に注意を払わなければならないわけですから、スレオニン型が適しているわけです。その後、環境に順応していくに従って差し迫った危険が減って、後者の遺伝子が増えてきたと考えられているようです。鬱になりやすいのは、圧倒的に前者のスレオニン型の人だと言われています。
すると、多くの方は自分はスレオニン型だと思い込んでしまいます。御多分に洩れず、10代の私は完全にこれが当てはまります。なぜなら、悩まないという人はほとんどいないからです。多かれ少なかれ、人は悩みを持っているものなのです。
今の私も常に2、3の悩みはあります。
ところが、「亀の甲より年の功」といいますが、年齢を重ねてくるとこの2、3の悩みを抱えているのが普通の状態で、悩みが全くないという状態はほとんどないことを悟ってくるのです。
さて「病は気から」に話を戻すと、悩んでいる時、自律神経のうちの交感神経が支配する状態になります。交感神経は、心拍数を上げ、脳への血流を促進する一方、消化器官の機能を抑制します。体がいわゆる臨戦体制になるわけですが、短時間であれば集中力も増し活動的になりますが、この状態が長時間続くと体力を消耗し結果的に免疫力も低下します。これが「病は気から」という状況を作り出すのではないかと考えられます。
先に触れたように、遺伝子のタイプの差はありますが、それでも悩みに対する受け詰め方を変えることはできます。考えてみれば、これまでも幾つもの悩みを乗り越えてきて、今があるのですから。
一案として、悩んだとき、あるいは考えがまとまらないときは、それを箇条書きに紙に書いてみることをお勧めします。
書いて俯瞰的に眺めると、解決法が浮かんだり、たとえ解決できなくてもさほど深刻な悩みではないことに気づいて、結果的に交感神経の緊張が和らぐものです。
漠然と漫然と悩むのが一番もったいない時間の使い方です。
同じ人生なら、晴々とした気持ちで生きなければ損です。