そうだったのか語源⑳  −人名−

人の名前は、親の思いや希望が込められていて興味深い。

健やかに育って欲しいという思いは、男子であれば健や健志、健司、健一といった名前に込められている。

美しい女性になって欲しいと願う親は、好子、美子、佳子、妙子、麗子といった名前をつけた。

一方で、「あぐり」という名前には意外な意味が込められていた。

「もうこれ以上要りません」という意味である。

もともとは、1800年代、東北地方の青森秋田の辺りで、「ものが充満した状態」を指す意味で使われていた言葉だとか。

「もうこれ以上子どもは要らない」という意味で、女子につけることが多かったようである。

「すえ」や「とめ」、「すて」といった音(おん)のつく名前には、同様の意味が込められていることが多い。

さて、欧米圏の人名も、意味にはこだわらず単に名前として受け入れてしまえばそれまでだが、意味を追求していくと、名前のつけ方が日本語にも通じる場合がある。

例として、ソフィアという女性の名前。

ソフィア=Sophiaはブルガリアの首都名にも使われている。

ラテン語、イタリア語ではそのまま「ソフィア」、フランス語ではSophieのスペルで「ソフィー」、ドイツ語で「ゾフィー」の音になる。

もともとギリシャ語で、知恵や叡智の意味があった。

ちなみに哲学を表すphilosophyは、phil-=愛する、好きと、sophy=知恵から作られた「知恵を愛する」という意味の言葉である。蛇足ながら、phil-は白血球のneutrophil=好中球の使われ方と同じで、philharmonyも同様でハーモニーを好むといった意味である。

閑話休題。

つまり、ソフィアという名は日本名では知恵子に相当する。

ついでに、上智大学はSophia Universityの日本語名で、「智」の字が当てられている。

次に、音楽好きな方はご存知かと思うが、W.A.モーツァルトの奥さんの名はConstanze=コンスタンツェである。

一方で、Constantinus=コンスタンティヌスはローマ皇帝として有名である。

トルコのイスタンブールの前身であるコンスタンティノープルの名も、この皇帝の名に由来している。

さて、この双方の名前は、constant=一定、不変と関連がある。

特にローマ皇帝の名はconstant=不変等の意味で、皇帝の世が不変であるようにという意味が込められているのであろう。いわば日本の「君が代」の歌詞と概ね同義と考えてよかろう。

コンスタンツェの名も同様の由来からすると、日本語名では定子、常子といったところか。

ついでに、有名なビートルズの「ヘイ ジュード」だが、Jude=ジュードは、ヘブライ語のユダから派生しており、キリスト教やユダヤ教では伝統的な名前である。ちなみに愛称はJudy=ジュディとなる。

さて、欧米圏では語圏により多少音が変化するも、同じ起源だと推測できる名前が少なくない。

例えば英語のFrederick「フレデリック」は、イタリア語ではFederico「フェデリコ」、ラテン語化する場合はFridericus「フリデリクス」、一方ドイツ語ではFriedrich「フリードリヒ」となる。ちなみにその意味は「平和と支配」だそうだ。

以下に、代表的な人名の、国によるスペルと音の変化を表にしてみよう。

英語 イタリア語 スペイン語 フランス語 ドイツ語
Michael

マイケル

Michele

ミケーレ

Miguel

ミゲル

Michael

ミシェル

Michael

ミヒャエル

George

ジョージ

Giorgio

ジョルジョ

Jorge

ホルヘ

Georges

ジョルジュ

Georg

ゲオルク

Peter

ピーター

Pietro

ピエトロ

Pedro

ペドロ

Pierre

ピエール

Peter

ペーター

William

ウィリアム

Guglielmo

グリエルモ

Guillermo

ギリュルモ

Guillaume

ギヨーム

Wilhelm

ヴィルヘルム

Robert

ロバート

Roberto

ロベルト

Roberto

ロベルト

Robert

ロベール

Ruprecht

ルプレヒト

Steven

スティーヴン

Stefano

ステファノ

Sebastián

セバスチャン

Étienne

エティエンヌ

Stefan

シュテファン

Henry

ヘンリー

Enrico

エンリコ

Enrique

エンリケ

Henri

アンリ

Heinrich

ハインリヒ

David

ディヴィッド

Davide

ダヴィデ

David

ダビド

David

ダヴィド

David

ダーヴィト

Catherine

キャサリン

Caterina

カテリーナ

Caterina

カテリナ

Catherine

カトリーヌ

Katharina

カタリーナ

Margaret

マーガレット

Margherita

マルゲリータ

Margarita

マルガリータ

Marguerite

マルグリット

Margarethe

マルガレーテ

Caesar

シーザー

Cesare

チェーザレ

César

セサル

César

セザール

Cäsar

ツェーザル

Elizabeth

エリザベス

Elisabetta

エリザベッタ

Isabel

イサベル

Isabelle

イザベル

Elisabeth

エリザベート

Julia

ジュリア

Giulia

ジュリア

Julia

フリア

Julie

ジュリー

Julia

ユリア

Richard

リチャード

Riccardo

リッカルド

Ricardo

リカルド

Richard

リシャール

Richard

リヒャルト

Leonard

レナード

Leonardo

レオナルド

Leonardo

レオナルド

Leonard

レオナール

Leonhardt

レオンハルト

 

これらの名前は、ギリシャ神話やローマ皇帝、キリスト教の聖者に由来するものが多い。

その他わかる範囲では、ウィリアムは「強い守護者」、ロバートは「輝かしい名声」、ヘンリーは「支配者の家」、レナードは「強い獅子」、マーガレットは「真珠」、リチャードは「力強い支配者」、ジョージは「農夫」といった意味がある。

 

最近は日本でも、○○ネームとか言って、音や響きを重視する命名が流行っているが、本人が大きくなってから名前の由来を物語れるよう、意味のある命名も悪くはないように思う。