年明け早々、一冊の本が送られてきた。
宮城県の海岸近くの町で津波に被災した、大学の後輩からだった。
タイトルは「あの日のわたし」。
東日本大震災を直接、あるいは間接的に体験した方々の手記99通を編集したものだ。
表紙の写真のなんと印象深いことか。
99人の思い、いや掲載されなかった人たちの思いまでをも雄弁に語っているようだ。
一人の僧侶が降りしきる雪の中、瓦礫の荒野に立ち静かにお経を唱えている。そこには神々しささえ感じられる。そして鎮魂の思いが読む者の胸にしみてくる。
一瞬で家族を失った無念さ、自然の力の前での人間の無力さ、未だ行方の知れない者への思い、字を追っていくといつしか涙が頬をつたう。
そして彼の手記も載っている。
津波が診療室の一階を飲み込み、波に運ばれてきた家の屋根や船が不気味な音をたて外壁を擦る中、二階に逃れた彼は完全に周囲から孤立し、無意識に座禅を組んでいたという。
彼は死を覚悟していた。このときの心境をこう語っている。
「やがて命を天に預けたと言いますか、天の流れに身を任せる覚悟ができました。もし生かされたら、きっと意味があるはずだ。そのために残りの人生を捧げようと誓いました。」
また未曾有のパニック状態のなか、秩序を守り、互いに思いやる人間の、日本人のすばらしさを実感した手記。
亡くなった方々、そして悲しみの分、未来に向かって力強く生きようとする手記も載っている。
手記を寄せた人たちは誰一人、作家ではない。
素人の表現だからこそ、そのときの心境がまっすぐに胸を打つ。