そうだったのか!語源⑩  −常用の外来語 その2− アナログとデジタル

これらの言葉は、すっかり日常生活に溶け込んで、日本語で説明するほうがずっと困難ではなかろうか。

デジタルという言葉が最初に日本で使われたのは、私のつたない記憶では腕時計だったような気がするが定かではない。

それまで時計といえば、長針と短針、さらに秒針が文字盤の中央の同軸上で回転して、それぞれ分と時間、秒を針の先端が指し示すものだった(言葉で表現するとややこしい)。1970年、世界初のデジタル腕時計が発売され、その後液晶表示になりあっという間に流布した。

一方アナログという言葉は、デジタルの登場によってそれに対比した形で使われるようになった。事実、それまでは針表示の時計をあえてアナログ時計とは呼ばなかった。

かような経緯のせいか、アナログが古くデジタルが新しいといった感覚が多分にあるようだが、元来の意味はかなり異なる。

analogはanalogyという英語から派生した言葉である。analogyには、類似や相似、類推といった意味がある。さらにその元となったギリシャ語のαναλογίαは比例という意味だとか。

この、そもそもの言葉の源である「比例」の意味に着目してみたい。

ここでいう「比例」とは、数学で用いる正比例などの比例とは異なる。

ここでは、ある物の状態を逐一別のある物で表示することを指す。逐一なので全ては連続して表示される。

つまりアナログとは、連続したもの(の変化)を他の連続した量で表示することである。

時計を例にすると、連続した時間の変化を連続した針の動き(角度)で表示する。

また温度計なら、連続した温度の変化を連続的に増減するアルコールの量(目盛りの値)で表示する、といった具合に。

一方のデジタルとは如何に。

まずdigitalだが、digital量は離散量と訳され、とびとびの値しかない量を指す。

そのもとのdigitとは、アラビア数字つまり整数を表すが、もともとは指という意味だった。

digitalis=ジギタリスという多年草をご存知の方も多いと思う。夏に鐘状花と呼ばれる釣鐘状の小さな花をたくさんつける。この花の形が指サックに似ていることから、digitという表現が使われた。

その指がデジタルとどう関係するのか。

数を数えるときに、古今東西を問わず、指を折るという習慣があるようだ。

「指折り数えて待つ」などという表現もある。

ちなみに、人間の指が通常左右で合計10本だったことが十進法の普及につながったという説もある。

つまりデジタルとは、ある物の状態を数字(整数)で表現したものをいう。

ちなみに、アナログはこれを実数で表示したものともいえる。

別の表現を使うと、アナログの小数点以下を四捨五入して一の位で表現したものがデジタルである(もちろん、小数点以下2位を四捨五入して、小数点以下1位で表現することもありうるが、いずれにしてもそれは実数ではない)。

整数は実数ではないので、たとえばアナログで、

1.2  1.3  1.4  1.6  1.8 と変化したものはデジタルではそれぞれ、

1    1    1    2    2   と表現される。

 

蛇足ながら、digitalの正確な日本語表記は「ディジタル」だが、我々日本人にはすこぶる発音しにくいので、通用表記として「デジタル」になったと思われる。

そういえば、Disney はかつての日本では、圧倒的に「ディズニー」でなく「デズニー」と発音する人が多かったし、Dieselも「ディーゼル」でなく「ジーゼル」だった。

近い将来、「デジタル」と発音すると若者との世代の差を感じるようになるかもしれない。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)