保育園理事長退任

公務が増えたため、9年間務めたあゆみ保育園の理事長を退任しました。

3人の子供たちがお世話になったご縁から、私で何かお役に立てるならという思いでお引き受けしました。

在任中、これといって何かを成し遂げるなどということはできませんでしたが、保育園として初めて理事会という形になった当初から、何もわからず手探りでやってきたというのが正直なところです。

理事の方々、園の方々のご協力のもと、保護者ではなく、子どもたちを預かる立場になって、貴重な体験をさせていただきました。

9月28日、理事の有志による歓送迎会を開いていただきました。

頂いた花束を医院の窓口に飾らせていただきました。

 

そうだったのか語源⑰ −略語について その2−

前回に引き続き、2文字のアルファベットの略語について触れてみたい。

ごく日常的に耳にするPRは、宣伝や布教活動を意味するpropagandaの略かと思いきや、実はpublic relations=宣伝の略だそう。ま、あまり大きな問題ではない。

proportional representationもPRだが、こちらは比例代表制を意味する。

さて、午前と午後をそれぞれAM, PMというが、これはラテン語のante meridiem (英語ではbefore noon) でPMはpost meridiem(英語ではafter noon)の略である。

このanteは、イタリアンのantipasto=前菜のanteで「前」の意、postはもちろん「後」の意である。meridiemは英語ではmeridianで、空に太陽(星などでも)が最も高く上がる時=南中、つまりは正午を意味する。ちなみに、日本語の正午の「午」は、十二時辰の午の刻(うまのこく)のうちで午の正刻である。十二時辰で「午の刻」は24時間制の11時から13時までの2時間を指す。

次に、ラジオにはAMとFMがあるが、前者がamplitude modulation の、後者がfrequency modulation の略で、それぞれ振幅変調方式、周波数変調方式と和訳されている。要するに、AMは電波の強弱で音を伝え、FMは電波の強さは一定で、電波の密度で音を伝える方式ということらしい(私は理系ながらこの辺は全く不案内である)。

2文字の略語が出たついでに、紀元前をBC、紀元後をADと表記するが、前者はBefore Christ、後者はAnno Dominiの略である。後者はラテン語だが、英語では(in the Year of the Load)で、「主(しゅ)の年において」といった意味になる。

ちなみに19世紀以降から、非キリスト教徒との関係からADをCommon Era(略:CE、「共通紀元」の意)、そして紀元前(BC)をBefore Common Era(略:BCE)に切り替える動きが広まっているそうである。

キリストに関係する略語で、クリスマスをXmasと表記することがある。

これにはギリシア語が関わっている。

ギリシア語には英語の “X” に似たような形の “chi” という文字がある。その “X” に似た文字が「キリスト」を表すギリシア語 “Χριστός(Christos)” の先頭の文字である。

“christmas” のことを “Xmas” と表記する習慣は数百年も前からあったそうで、当時は “X” という文字自体がキリストを表す略語として使われていたそうである。

さて、これまでの流れとはやや関連が希薄になるが、番号を表す文字にNo.がある。

「数」を表す英語はnumberだが、ラテン語ではnumero となる。numeroは正確にはin numberの意、「数でいうと」といったところか。

このnumeroの省略形がNo.である。ラテン語では語尾変化が多いので、最初の文字と最後の文字をとって省略形とすることがよくある。例として、医療用のカルテで「同じ、同上」の意味でdoと表記することがあるが、これはdittoの省略形である。

IQは知能指数と和訳されるが、intelligence quotientの略語である。最近ではさらにEQというものが注目されているが、これは emotional intelligence quotient=情動の知能指数の略語である。

IQが「知能」の発達速度を表すのに対し、EQは仕事への取り組み姿勢や人間関係への関心の度合いなどを感情という視点から表すとされている。ちなみにeducational quotient=教育指数もEQだが、こちらは内容が全く異なる。

2文字の略語はさらに続く。

EUはEuropean Union=欧州連合の略であるが、これはかつてのEC(European Community=欧州共同体)から発展し、外交や安全保障政策の共通化や、ユーロによる通貨統合の実現をめざす統合体を指す。

UNはUnited Nations=国際連合の略語である。ちなみにその全身である国際連盟はLN(League of Nations)である。

米国の首都、ワシントンD.C.のD.C.はDistrict of Columbia=「コロンビア特別区」の略である。米国には50の州があり、州立大学のように州ごとに法律や制度が異なることが多い。ワシントンD.C.には国の重要な機関が多くあり、「どの州にも属さない連邦政府の直轄地」という意味が込められている。コロンビアという名は、アメリカ大陸発見者コロンブスに由来している。ちなみにColumbus=コロンブスはラテン語で鳩という意味である。

プロ野球で使われるFAはfree agentの略で、どの球団とも選手契約できる権利を持つ選手を指す。ついでにDHはdesignated hitterの略で「指名打者」と和訳されている。我々が関係する医療分野では、dental hygienist=歯科衛生士もDHと略される。

OAはoffice automationの略で、事務作業の自動化のことをいう。それを逆にしたAO入試のAOとはadmissions office=「入学管理局」の略で、学力試験を課さず、入学管理局の選考基準に基づいて入学の可否を判断する選抜制度のことをいう。

OPと略される言葉は多い。以下に代表的なものを挙げてみる。

option=オプション、選択肢、選択権

opening=オープニング、番組やコンテンツの冒頭に使われる音楽や映像

operation=オペレーション、手術、処理、操作

opus(Op.)=オーパス、音楽などの作品番号

他にも枚挙にいとまないが、まずは今回このくらいにしておこう。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)

テッポウユリ

8月ももう終わり、朝子供達の声も聞こえるので、この辺りの小学校では2学期も始まったようです。

ここ前橋でも、まだ日中は35℃近くまでになる日もありますが、朝夕はずいぶん涼しくなり、また1ヶ月前に比べ、日暮れが早くなったのがはっきり感じられます。

暑い時間は外に出たくなくなりますが、日差しが傾いた頃庭に出てみると、テッポウユリがあちこちに花を咲かせていました。我が家の庭はどこから種が飛んでくるのか、テッポウユリが勝手に増えています。

調べてみると、花弁の裏に紫の筋が入っているのでタカサゴユリという種類かもしれませんが、両者には混雑種が多いそうで、外見上の特定は難しいようです。

暑い時は、右の白いサルスベリ同様、白い花は心に涼やかな風を運んでくれますね。でもサルスベリは漢字で百日紅と書きますから、本当は白とは矛盾するのかもしれません。

北九州の豪雨災害が早く終息しますように。

 

そうだったのか語源⑯ −略語について その1−

最近はとにかく略語が多い。

KYが「空気読めない」の略語だというのは別として、普段何気なく使っている略語について語ってみたい。

日本語でも、中学英語の「三単現」や最近の「就活」「婚活」といった略語はあるが、漢字は表意文字ゆえ、字面からある程度意味を汲み取ることができる。

一方、アルファベットはひらがな同様表音文字のため、頭文字等で表記された略語から意味を推し量ることはできない。

したがって、アルファベットの略語は、ある業界や分野、あるいは社会で周知されているものでなければ意味がない。しかも、同字異義語が多いことにも注意が必要だ。

今回はアルファベットの略語から確認してみたい。取り上げる略語は、思いついたものとそれから派生するものを芋づる式に列挙しただけで特に深い意味はない。

まず、生活に不可欠なW.C. から。

これはwater closetの頭文字をとったもので、 closet=クローゼットには、個室や秘密の場所といった意味がある。その名の通り、水洗式になってからできた言葉で、それまでの旧式のものと区別して使われたようである。ちなみに、現在は英語圏ではあまり使われていない(rest roomやpowder room, toilet等が一般的)。

ちなみに、ウールマークの認定を行う組織もWC=The Woolmark Company である。

酸アルカリの表示に使うpH(ペーハーあるいはピーエイチ)は、水素イオン(濃度)指数と和訳されているが、potential of hydrogenの略であり、直訳すれば水素イオン力価といったところか。

ISOコードでは国名のフィリピンもPHと表記される。

近年環境汚染で注目されているPM2.5。

PMとはparticulate matterで、和訳で微小粒子状物質、あるいは粒子状汚染物質と和訳されている。2.5とは2.5μ(1ミクロン=10-6m)を表している。この大きさより小さいと、呼吸器系など健康への悪影響が大きいと考えられている。ちなみに、午後のこともpost meridiemの略でPMと表記される。

さて、すっかり社会に溶け込んだ感のあるITはinformation technologyで情報技術、最近はやりのAIはartificial intelligenceで人工知能とそれぞれ和訳されている。

ちなみに、artisticは芸術の、あるいは芸術的という形容詞であるが、もともとartはnature=自然の対義語であり、人が作ったもの、あるいは人が手を加えたものという意味合いがあったようである。そこからart-のつく人工も芸術ももともとは同源であることがわかる。

最近は「手作り」が付加価値を生むが、この語源が「自然」の対義語であることはある意味皮肉である。

次に、BSはbroadcasting satellitesで、一般的には衛星放送と訳されるが、文字通りに和訳すれば放送衛星である。この辺の事情に拘泥すると事が先に進まないのでスルーすることにしよう。

その放送番組で使われるMCとは、master of ceremony の略で、番組全体を仕切る役をいう。他に、アメリカの国会議員もMember of CongressでMCと表記される。他に、Main Characterの略で,主人公,ヒロインのことも指す。さらに、Microphone Controllerの略で、ラップをする人のことも(ヒップホップの用語)。他にも多々あるが割愛する。

さて、クルマのガラスや化粧品等で使われるUVカットのUVとはultravioletで紫外線。ではもう一方の赤外線はというと、IRでinfraredの略である。ultra(超)もinfra(下)も上下という概念で表現されているが、日本語では上下よりも内外の印象が感じられ面白い。ちなみに、近年物議を醸したIR法のIRはintegrated resortの略で、統合型リゾートと和訳されている。

IHクッキングのIHはinduction heatingの略で、誘導加熱と和訳されている。 電磁誘導により金属製の調理器具を自己発熱させ調理する仕組みである。

さて、テレビをはじめとする家電製品には、かつては真空管が使われていた。 当時の家電は、電源を入れてから起動するまでに時間を要した。それがトランジスタに、そしてICに進化し、電源を入れてから稼働するまでの時間が飛躍的に短縮された。ICはintegrated circuitの略で集積回路と和訳されているが、トランジスタやダイオード、抵抗等を一つの半導体チップにまとめたものである。

LEDはlight emitting diodeで、発光ダイオードと和訳されている。diode=ダイオードとは、整流作用をもつ電子素子で、もともとは2極真空管だった。ギリシャ語の2を表すdi-と電極を表すelectrodeとの造語である。現在はダイオードといえば半導体ダイオードを指す。

医療分野でレーザー治療は大活躍している。歯科治療でも汎用されるレーザー=LASERだが、Light Amplification by Stimulated Emission of Radiationの略語で、「輻射の誘導放出による光増幅」と和訳されている。結果的に、光を一方向に集めて増幅させたものである。

次は軍事関連の造語について。

最近、ミサイルの脅威が叫ばれているが、兵器に関してはICBMというミサイルの名前は馴染み深い。intercontinental ballistic missileの略で、大陸間弾道ミサイルと和訳されている。このballisticはボール=ballの軌道が語源らしい(根拠のある推測)。ちなみにSLBMは、submarine-launched ballistic missileの略で、潜水艦発射弾道ミサイルと和訳されている。PAC3はPatriot Advanced Capability3の略語で、かつて湾岸戦争に使われた米国製の地対空ミサイル、パトリオット(愛国者の意)の進化型という意味であろう。

続いて、米国から輸入したP3-Cという哨戒機があるが、このPはpatrol plane=哨戒機のことを指す。この「哨」については語源の⑦で触れたので、ご興味のある方は参照されたい。

ちなみに米国では、軍用機のFはfighter=戦闘機、Bはbomber=爆撃機、Cはconveyer=輸送機をそれぞれ指す。

以上のような例を挙げると、いかにも私が好戦家のように思われそうだが、筋金入りの軍備増強反対派である。

次に、パソコンやインターネットに関連するものをいくつか取り上げてみたい。

まず、HTTPとはhypertext transfer protocolの略称で、ネット上での通信に関する規約(手順)を指す。HTTPでは、データを受信する側(クライアント)が要求をサーバーに伝え、それに対してサーバーが応答する。我々は何気なくサイトを見ているが、機械的にはこういうプロセスを踏んで、結果として目的のサイトに行き着くのである。実に便利になったものである。

URLとは、uniform resource locatorの略称で、インターネット上に存在する文書や画像などの情報資源の場所を指し示す技術方式で、いわばサイトの住所である。適当な和訳は見つからない。

サイトの最初に出てくるWWWはworld wide webの略で、世界中に張り巡らされたクモの巣のような(ドキュメント同士の)つながりという意味である。

HTMLはhyper text markup languageの略称で、「ハイパーテキストに目印をつける言語」といった意味である。 ハイパーテキスト=HyperTextとは、ハイパーリンクを埋め込むことのできる高機能なテキストである。 そしてハイパーリンクとは、ウェブページで下線の付いたテキストなどをクリックすると別ページへ移動するリンクのことである。HTMLには、このハイパーリンク機能で関連する情報同士を結びつけて、情報を整理するという特徴がある。

ファイルの形式でPDFというものがあるが、Portable Document Format(ポータブル・ドキュメント・フォーマット)の略で、紙に印刷するのと同じ状態のイメージで保存する形式を意味する。

CPUとは、中央演算処理装置=Central Processing Unitの頭文字をとったもので、要するにコンピューターの中枢部分であるが、これは感覚的にわかりやすい。

次にUSBだが、Universal Serial Busの略である。busとはデータの伝送路(交通機関のバスと同源)で、serial busとは一度に1ビットずつ逐次的にデータを送ることを指す。ホスト機器(中心となるコンピューター等の機器)に様々な周辺機器を繋ぐための伝送路の規格のことである。universalという言葉通り、USBマークの付いたコネクタは、様々なものと接続できることは実感できよう。

ハブ=hubは、もともと車輪の中央部のスポークが集まるところを指し、そこから複数のネットワーク装置を接続する集線装置を指すようになった。ハブ空港なども同様の使い方である。

ルータ=routerはroute=道、経路から由来し、データを二つ以上の異なるネットワーク間に中継する装置のことをいう。ちなみにhubとrouterは略語ではない。

最近流行りのblog=ブログについて。このコーナーもそのブログである。

blogは、これもれっきとした造語で、web(ウェブ)上にlog(ログ:記録)を残すという意味のweb log(ウェブログ)の略である。ちなみに、この-logはカタログ=catalog 序文=prolog 結末=epilog 独白=monologにも使われている(-logueとも書かれる)。それにしても中途半端なところで切ったものだとも思うが、microphoneも「マイクロ」ではなく「マイク」という切り方をするのと同じようなものか、このあたりは勉強不足でよくわからない。

DVDはDigital Versatile Discの略で、この中で馴染みの薄いVersatileとは、「多機能な」といった意味である。

今度は、車に関する略語を挙げてみたい。

近年流行りのハイブリッドカー(HV)はhybrid vehicleの略で、二つ以上の動力源を持つ車を指す。日本で一般的にハイブリッド車と呼ばれるクルマは、内燃機関(エンジン)と電動機(モーター)を動力源として備えた電気式ハイブリッド車でhybrid electric vehicle =HEVである。ちなみに電気自動車はEV=electric vehicleである。

ターボ等、過給機搭載のエンジンに対し、自然吸気のエンジンをNAというが、これはnatural aspirationの略である。

4WDは四輪駆動でfour-wheel drive の略、または all-wheel drive(総輪駆動あるいは全輪駆動)の略でAWDとも表記される。ちなみに、前輪駆動はFWD=front wheel drive、後輪駆動はRWD=rear wheel driveである。

蛇足ながら、ハンドルもホィールというが、正式にはsteering wheelで舵輪と和訳される。

SUVとはSport Utility Vehicleの略で、スポーツ用多目的車と和訳される。  似ているものに、RV=レクリエーショナル・ビークル (アメリカ英語: Recreational Vehicle)というものがある。もともとはキャンピングカーを指したようだが、要するに娯楽用のクルマといった意味であろうか。

現在は、前者は主に舗装されていない道を走行することに適したクルマを指し、後者は、前者に加え、ワゴンやミニバンも指すようである。

GTはグランド・ツーリング(Grand Touring)の略で、本来の意味は、かつてイギリス貴族の子弟が行っていた「グランド・ツアー」つまり「大旅行」に由来する。転じて長距離移動を快適に行うための乗用車を指すようになった。現在使われるGTとは随分イメージが異なる。

最後にNGとNPについて。

NGはテレビなどで、ダメ出しや失敗の意味でよく耳にする。もちろんno goodの略だが、和製英語なので海外では通じない。

一方NPはno problemの略で、「問題ないよ」「気にしないで」「平気です」などの意味。医療のカルテでは、特記すべきことなしの意でnot particularの略でNPを用いることもあり、こちらは海外でも通じる。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)

 

雨続く

今年の梅雨は、いわゆる「梅雨の晴れ間」という日が少なく、雨降りのどんよりした日が続きます。

5月には、「例年の7月並み」という暑い日が続いたかと思うと、今月は「例年の4月並み」の気温という肌寒い日があったり—体調管理が難しいようで、患者さんの中にも咳をしている方がいます。

夏の暑さが苦手な私には、例年より過ごしやすく感じますが、一方で野菜をはじめ、農産物の生育にはどうでしょうか。

左は、特に季節の花というわけではありませんが、家の花瓶に挿してあったガーベラを撮ってみました。

右は、1年前にもアップした、夏の風物詩、ベランダの睡蓮(未草:ひつじぐさ)です。うっとうしい季節には、目につかの間の爽快さを与えてくれます。

すぐ下のヒメダカが見えますか?

そうだったのか語源⑮ −国名都市名その3 番外編−

地理的な話題の3回目であるが、今回は脈絡もなく番外編という扱い方でご紹介することをご容赦願いたい。

さて唐突であるが、日本ロマンチック街道というルートがある。

まず、ロマンチック街道について触れてみたい。

これは、ドイツのヴュルツブルクからフュッセンまでの366kmの街道のことだが、この街道沿いには、中世の街並みや城塞が点在しており、いわば観光街道である。それはともかく、独語ではRomantische Straßeと表記され、「ローマへの(巡礼の)道」と和訳されている。日本語でいう「ロマンティック」は、ロマン主義や恋愛に関係したイメージが強いが、本来の独語の「ロマンティッシュ」あるいは英語の「ロマンティック」は、「ローマの」という形容詞である。せいぜい「ローマに繋がる」くらいの意味なので、「日本ロマンチック街道」とは、四方を海に囲まれた日本においてはありえない名称なのである。

もっとも、あまり深いことを詮索せず、「日本のロマンティックな通り」くらいに捉えて楽しめばよいのかもしれない。

同様に、「日本ライン下り」もやや似た発想の命名である。

本来、ドイツを流れるライン川を下ることを「ライン下り」と言い、ライン川ではない日本の川を下るのに、「ライン下り」と呼ぶのは解せない。

実は、美濃加茂市から犬山市までの木曽川渓谷の風景がドイツのライン川に似ていることから、この渓谷に「日本ライン」と命名したため、この渓谷の川下りが「日本ライン下り」と呼ばれるようになった。

一方「日本アルプス」という名前は、19世紀にイギリスの鉱山技師が飛騨山脈をヨーロッパのアルプス山脈に因んで命名したのがその由来である。ちなみに、「アルプス一万尺 小槍の上で」という歌があるが、小槍とは日本アルプスの槍ヶ岳の隣にある岩峰のことである。

本場ヨーロッパのアルプスにモンブランという最高峰がある。仏語でMont Blanc、つまり「白い山」という意味だが、同じ山を南側から眺めるイタリアではモンテ・ビアンコ (Monte Bianco=イタリア語で「白い山」)とよぶ。Blancは英語のblank=空白と同義で、ワインの白もBlancという表現をする。

余談になるが、ラテン語で「白」を意味するalbaという言葉がある。花でも白いもの、動物でも突然変異によって色素を失ったものをアルバ系という。アルバム=albumは、古代ローマ時代に議事録として使われた白い石版がその起源とされており、その後台紙を綴ったものを総称してそう呼ぶようになった。

ゴルフ用語のアルバトロス=albatross(アホウドリ)も、ラテン語で「白い」を意味するalbusとポルトガル語で「カツオドリ」を意味するalcatraz(アラビア語ではal-qaTraas 「ウミワシ」)との合成語で、「白く大きな海鳥」といった意味合いとなる(ちなみに、alcatrazはサンフランシスコ湾内に浮かぶ刑務所の名でもある)。

閑話休題。

さて、イタリアの作曲家ヴェルディ=Verdiは緑のこと、そしてモンテヴェルディ=Monteverdiは「青い山」(日本では青山さんといったところか)、国名のモンテネグロ=Montenegroは黒い山の意。ついでに、カナダのモントリオール=Montrealは「真実の山」という意味かと思ったら、近くにモン・ロワイヤル=Mont Royal=王の山と呼ばれる小高い丘があり、これが由来になっているとのこと。

パリのモンマルトル=Montmartreは、Mont des Martyrs、つまり「殉教者の丘」がその名の由来である。

ついでにモン・サン・ミシェル=Mont Saint-Michelは聖ミシェルの山の意、モンテカルロ=Monte Carloは「シャルル3世の山」の意味である。

再びドイツ語圏の地名に触れてみたい。

メルセデス・ベンツの本社があるドイツのシュトゥットガルト=Stuttgartは、Stutengarten(Stuten=雌馬の、garten=庭)から派生したものだ。ニュアンスとして、日本語の馬事公苑に近いか。

モーツァルト生誕の地、オーストリアのザルツブルク=Salzburgはご存知に通り「塩の砦」の意で、近隣で産出される岩塩の積み出し場があり、かつて大司教がその積載量に応じた通行税を徴収し財源としていた。ちなみに、モーツァルトと大司教との軋轢は有名であり、セレナード「ポスト・ホルン」の作曲に際し、司教との決別にまつわる逸話が残っている。

ドイツ・バイエルン州に、ノイシュヴァンシュタイン城という有名な城がある。カリフォルニアのディズニーランドの「眠れる森の美女」の城のオリジナルとなったという城で、おとぎ話に出てくるような美しさと讃えられている。

ノイシュヴァンシュタインとはドイツ語でNeuschwansteinと表記し、和訳すれば「新しい白鳥の石(岩)」となる。もともとシュヴァンガウ地区(和訳すれば「白鳥地区」)にあったシュヴァンシュタイン城にちなんで名付けられた。

日本でも姫路城を白鷺城と鳥の姿に比喩するが、これは単なる偶然であろうか。

ノイシュヴァンシュタイン城は誰が見ても絵になる美しさであるが、意外にも、伝統的な石造りではなく、鉄骨組みのコンクリートおよびモルタル製で、古建築保存を目的とする世界遺産にはなっていない。美しいイメージが壊れないことを願いたい。

バイエルンで忘れてならないのは、BMWという自動車メーカー。

BMWとはBayerische Motorenwerkeの頭文字で、和訳すれば「バイエルン自動車製作所」、BMWのままのほうがイメージを損なわないようだ。

さて、前出のアルプス山脈に名峰ユングフラウ=Jungfrau(独)がある。

アイガー、メンヒとともにオーバーラント三山の一つである。

ユングフラウは独語で「若い娘」あるいは「処女」という意味だが、これは山の所有者であるインターラーケン=Interlaken(湖の間の意)にあった女子修道院の修道女がその名の由来とされている。

メンヒ=Mönchは修道士の意味だが、これは修道女に相対して名付けられた。

一方アイガー=Eigerの名は、その尖った形に由来しているとされている。

ただ、ラテン語で鋭いという意味の“アケール”(acer)が由来という説、独語で槍の意味の“ゲル”(Ger)が由来という説があり、言語学者の間でも意見が分かれている。

話は変わって、オランダという国について。

自国オランダ語ではNederland(ネーデルラント)と言われている。

俗称の「Holland(ホラント)」もよく使われるが、これはスペインの支配に対して起こした八十年戦争で重要な役割を果たしたホラント州(現在は南北2州に分かれる)の名に由来している。

通称ホラントと呼ばれていたのが、ポルトガル経由で「オラント」「オランダ」と伝わったようである。 ちなみにこの「オランダ」に近い呼称は日本だけで使われているわけではなく、他にもHolland由来の国名で呼んでいる言語もある。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)

長い休み

今年のゴールデンウィークは、平成から令和に改元されることもあり、とても長い休みとなりました。

前半は肌寒い日もありましたが、その後は初夏を思わせるような気候となりました。草むしりも、しばらく続けると汗ばんできます。

医院玄関のモッコウバラも散り始め(写真左)、庭ではクレマチス(レベッカ:右)が満開になりつつあります。

5月は清々しい季節というイメージがありますが、下旬になると、梅雨の走りのような、うっとうしい陽気の日々も次第に多くなってきます。

本当に過ごしやすい時期というのは長くは続かない、毎年感じます。

そうだったのか語源⑭   −国名都市名その2 漢字表記−

前回に引き続き、国名や地名等について触れてみたい。

まず、英国、米国、独国、仏国等、漢字の略語表記されている国名について。

これらの多くは、中国語による発音を模した当て字からきている。

のちに、日本語の漢字を当てたものもある。

まずイギリスは、中国語で英吉利(yingjili)なので「英国」、アメリカは江戸時代の日本語の漢字で米利堅(メリケン)国、ちなみに中国語では美利堅(つまり略称は「米国」ではなく「美国」となる)と表記される。またちなみにであるが、イギリスという呼称の語源は、イングランドを意味するポルトガル語のInglez(イングレス)だとされている(現在でいうイングランドではなく、連合王国のUK全体を指している)。

江戸時代に交易のあったポルトガルからの又聞きの表現を今も使い続けているというのも不思議である。当然ながら、イギリス人に「イギリス」と言ったところでなんのことか全くわからないであろう。

次に、我が国とは長い付き合いのあるオランダは、オランダ語ではNederland(ネーデルラント)という。

これは「低地の国」あるいは「低地地方」を意味する普通名詞に由来する。

オランダの漢字表記は、和蘭、和蘭陀、阿蘭陀、荷蘭陀、荷蘭、尼徳蘭等と表記され、「蘭国」と略される。由来はポルトガル語表記の「Holanda」が、戦国時代にポルトガル人宣教師によってもたらされたことによる。イギリスの場合同様、当時直接交易のあったポルトガル語表記の影響を受けている。

ちなみに、当のポルトガルの「葡萄牙」という表記はかなり難解か。

ドイツは、本国ではDeutschland(ドイチラント)で、「独国」と略されるが、これは日本語漢字表記の「独逸」の略語である。

ちなみにGermany(ジャーマニー)はドイツの英語表記で、ゲルマン民族の呼称から来ている。

フランスの「仏国」は同じく日本語漢字表記「仏蘭西」の略語であり、当然ながら仏教とは無関係である。

一方、オーストラリアの日本語による漢字表記は「濠太剌利」で、漢字1文字で書くと「豪」と略され、漢字2文字の場合は通常「豪州」と表記される。

さて、国名とはやや離れるが、中東と極東といわれる地域がある。

中東は、アラビア半島からアフガニスタン、パキスタン、インド、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、中国の青海省にかけての地域を指し、極東は日本をはじめ、極東ロシア、朝鮮半島、中国、そして東南アジアの一部を指す。

実はこれ、欧米、および経度(グリニッジ天文台を通る0度)から見た表現である。ヨーロッパを中央に表記した地図(日本が右端にあるもの)を想像すれば理解できよう。

もともとヨーロッパでは、それより東方をNear East(近東)とFar East(極東)に大まかに区分したが、19世紀に植民地支配の観点からイギリスなどにより、Middle East(中東)、つまり近東と極東の間という概念が生まれた。

ちなみに近東とは、バルカン半島からトルコ、エジプトにかけての地中海東岸域を指す(要するにかつてのオスマン帝国の領域)。

次に、中国由来の地域名に触れてみたい。

南蛮というとネギを連想する方も多いが、これは、16世紀頃から来日していたイベリア系(スペイン、ポルトガル)の人々が、ネギを好んで食したことに由来しているという。当時この人々は南蛮と呼ばれたマカオやルソンを支配していた。また彼らは香辛料も好きだったため、唐辛子を入れた漬物を南蛮漬けと呼ぶようになったとか。

その南蛮とは、中国を支配していた漢民族がつけた名前である。服を着ておらず、採取生活をしていた南方の人々を差別意識を込めそう呼んだ。

「蛮」とは「虫」を部首とし、人として扱っていない悪字である。

漢民族の中華思想(中国こそが世界の中心といった考え方)から、自らの支配下にならない民族を見下し、その国々を四夷(しい)と呼んだ。

四夷とはその位置に従い、東夷(とうい)、北狄(ほくてき)、西戎(せいじゅう)、南蛮という蔑称のことである。ちなみに日本は東夷にあたる。

いかにも中国らしい命名であるが、わが国でも江戸時代に「尊王攘夷」という言葉にあるように、敵国を上から目線で、自らを鼓舞する表現があったようだ。

さて、海洋のなかに太平洋と大西洋があるが、前者に「太」、後者に「大」が使われている。

太平洋という名称は、大航海時代にマゼランが世界一周の航海中につけたとされている。

南米最南端のマゼラン海峡を通って大西洋から太平洋に入った時、波の荒い大西洋に比べ太平洋が穏やかだったことから、ラテン語で「平和な海」を意味するEl Mare Pacificum (英語ではPacific Ocean)と名付けたため、日本語では「太平な海」の意味で太平洋と訳されたのである。

一方の大西洋はAtlantic Oceanのことだが、英語名はギリシャ神話のアトラスに由来しているが、日本語の大西洋という名前とは全く関係がない。ヨーロッパの西にある大きな海くらいの意味であろうか。

最後に、地理的なものとはあまり関係ないが(いや、少しはある)、トリビアとして「幾何学」について。

「幾何」とは如何に?と言いたいところである。我々日本人のほとんどは、「幾何」という言葉に何のイメージもわかないのではなかろうか。

「幾何学」は図形や空間を研究する数学の1分野で、ラテン語でGeometria,英語ではgeometryという。

geo-は「地」を、-metryは「測定」を意味し(長さのメートル=meterと同語源)、もともとは「土地計測学」つまりは「三角測法」を指していた。

一般的にはGeometriaの”geo”を中国語に音写(表音)したものが”幾何”であると説明されている。

しかし近年の研究では、清代に中国に滞在したイエズス会士が計量のことを”幾何”と翻訳していたようで(要するに、英語でHow many-?  How much-?といったところか)、どちらかといえばGeometriaの”metria”を中国語訳したものであるという説もある。

表音か表意か、なかなか意味深長である。

(群馬県保険医協会歯科版掲載のための原稿)

モッコウバラ開花

今年の春は、やや気温高めです。

つい一ヶ月前には季節外れのなごり雪が降りました。

ここ前橋では積雪こそありませんでしたが、3月の雪と聞くと、それだけで交通機関の乱れを危惧し、精神的降雪被害が起こります。

さて、モッコウバラは生育旺盛で、これでもかというくらい伸びます。

特に拙院の植え込みのモッコウバラは成長甚だしく、一緒の植え込みのブナにも覆い被さり、ブナには脅威となっています。

昨年の晩秋、思い切って上に伸びようとするモッコウバラを剪定しましたが、その結果、下の枝がどんどん伸び、ご覧の通りの有様となりました。

これもなかなか風情がありませんか。

桜花繚乱

数日前までの寒の戻りから一転、ここ2、3日ポカポカ陽気が続きました。

北関東の前橋でも、桜が満開になりました。

写真は4月7日(日)、近くの桃ノ木川に架かる橋から撮ったものです。

気に入っている定点観測点です。

シルエットになっているのは赤城山。地元の方なら、左側のコブ(鍋割山)がはっきりすると、やや東からの眺めであることがわかります。

桜が散り葉桜になるとハナミズキの開花が始まり、そしてバラの季節を迎えますます。